AIに仕事を奪われる時代|生き残るためのカギは「読解力」

新井紀子さんが書かれた『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読みました。数学や科学の知識がなくても、読みやすく、AIの正体や磨くべきは「読解力」である理由を分かり易く解説してくれています。
漠然としたAIという脅威を理解でき、その備えとしてすべきことを考えるきっかけにもなりますので、ここでご紹介したいと思います。
「AI vs. 教科書を読めない子どもたち」の概要
AIの正体
AIの限界を図るべく東大受験に挑む「東ロボくん」という人工知能の開発を通じて、AIの限界についてとても分かりやすくご説明してくれてます。
ポイントとしては、下記だと理解してます。
- AIはどこまでいっても計算機でしかなく、四則計算に翻訳可能なものしかインプットできない
- アウトプットできるのは、「論理」的処理が可能な形でデータを読み取れるケースと、データ蓄積により「確率」からデータを選び出し、「統計」的な解を出すケース
- 常識と意味を理解できないため、自然言語処理、特に推論や同義文を判断することは、現時点で知りうる範囲では結構ハードルが高い(当然、確率・統計的にアウトプットは出せるが意味不明だったりする)
近年、AIに奪われる仕事があるとよく言われますが、論理的に説明可能でそれに必要なインプットをでき、アウトプットも限定的な仕事(マニュアルに沿った作業するような仕事)や、大量のデータをベースに確率や統計的に回答を出していけるような仕事(個人ローンの審査など)はAIが大体される仕事として挙げられているようです。
一方で、10~20年後も残ると言われる仕事は、コミュニケーション力や理解力(高度な読解力と常識)、状況に応じた柔軟性を求められる仕事と言われています。ソーシャルワーカーやカウンセラー、医師などが挙げられているようです。つまり、「論理」「確率」「統計」に還元できない仕事です。
読解できない子どもたち
では、「論理」「確率」「統計」に還元できないもの(つまりAIが得意と言えない分野)に求めらる能力とは何か?その重要なものとして、「読解力」を挙げています。
AIが苦手とすることで、人間には簡単にできることはたくさんあります。「先日、岡山と広島に行ってきた」と「先日、岡田と広島に行ってきた」の意味の違いが理解できないのが不肖の息子東ロボくんであり、今日のAIです。
引用:新井紀子著「AI vs. 教科書が読めないこどもたち」P.169
我々人であれば、文脈や常識に基づき、意味を理解し、前者は地名としての「岡山」で、後者は人名の「岡田」と判断するでしょう。でも、AIは意味を理解しておらず、常識もないため、そうは判断できないのです。
判断させようとすると、この会話の中における「岡田」は人の名前であるというデータを用意し、学習させる必要があります。その他の人名にも対応しようとすると、日本全国の名字データを用意し、読み込ませなければならないのです。一を判断させるために、数万件のデータを読み込ませる必要ということに。
一方で、現在、著者が危惧されるのが、このAIが不得意とする「読解力」という領域を、現代の子どもの多くが苦手としていることです。
著者が責任者を務める研究グループで作った読解力を図るテストで、特にAIが苦手とする「推論」「同義文判定」「イメージ同定」「具体例同定」という分野で、中高生も苦手としているという結果となっているそうです。
なお、読解力を図るテストというのは、基本的には中高で使用される教科書に掲載されている文章から構成されたもので、この結果が思わしくないということは学ぶべき教科書自体を理解できないということです。
「同義文判定」の具体例を一つ引用させてもらいます。
[問3]次の文を読みなさい
引用:新井紀子著「AI vs. 教科書が読めないこどもたち」P.205
幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
右記の文が示す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。
1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
歴史を仮に暗記していなかったとしても、文章を読めば、当然答えは「異なる」ですよね。
意味は理解はせず、単語の検索と確率・統計により解を出すAIには結構難しいようです。二つの文章で出てくる単語がほぼ同じであるためです。
ただ、大変残念なことに、中学生の正答率は57%だったそうです。2択なので、当てずっぽうでも確率的には50%の問題の正答率がそれに近しい正答率ということはちょっと驚きです。
どういう未来になってしまうのか?
AIが苦手な読解が人も苦手となると、何が起こるかというと、AIが現時点では代替が難しいと思われる作業を、人もできない状況になるということです。
AIにより奪われる仕事は恐らく必ず生まれますが、そこで仕事を奪われた人は、人にしかできないと言われる仕事もできないという絶望的な状況になる可能性があるのです。
さらに問題なのが、今の教育が、AIが代替できる能力を養成するものだということであると挙げてます。
読解力が問題であるのではないか?ということが問題視はされてこず、情報処理をいかに早くできるかの訓練を繰り返し、1対1対応のドリルを繰り返すような訓練を繰り返すような教育です。
教師から一方的に学ぶ教育ではなく、興味関心のある事柄を自発的に学習していくための教育としてアクティブラーニングなどの導入も検討されています。
が、そもそも教科書の読解力がないということは、興味関心があっても、それを自発的に調べ・学習していくことができないということになるのです。
残念なことですが、まだ読解力の向上と相関性が高いと思われる教育方法は見つかっていないとのことです。
子どもにしてやれることは?(個人的見解)
子どもに必要な教育とは?
AIが苦手な「読解力」、つまりそれを構成する「推論」や「同義文判定」等の本質は何か?
本文でも言及がありましたが、AIは万のデータを持ってから、ようやく一のアウトプットを出せる、応用できない、柔軟性がない、決められたフレームの中でのみ計算処理が可能。一方で、人は読解力をもって、「一を知って、十を知る」ことができ、応用でき、柔軟に対応でき、フレームを超えた発想ができる点においてAIが当分到達できないアウトプットを生み出すことができるのです。
そう考えると、必要とされている学び方というのは、一対一を積み重ねるような勉強ではなく、物事の本質(意味)を知ろうとする、物事を抽象的に捉える癖をつけるということではないでしょうか。
先の引用させていただいた例でも、「幕府」と「大名」の役割とはなんだったのか、どういう人たちの呼称なのか、という本質(意味)を理解するようにしておけば、問題文のおかしさというのにはすぐに気が付けるはずです。
「本質」を知るとは?
今の教育を受けきた人の多くは、「平均を計算せよ」、「円の面積を計算せよ」、「鎌倉幕府ができたのは?」という問いは、反射的に回答できると思います。ただ、その本質を理解しているのか?と問われると話は違ってくるのではないでしょうか?
2003年の東大数学の入試問題に、「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という短く、でも本質の理解を試す有名な問題がありました。
円周率というものがあり、それは3.14…と永遠に割れない数だが、円周や面積を計算する際は、3.14(今は3ですか?)で近似計算すればOK。中学生からπで計算するものだと、機械的に記憶をしていたとすると、絶対にこの問題はとけないでしょう。
でも、円周率は実際どのように生み出されたのか?円というのがどういうものなのか?を理解していれば、おのずとどういう風に考えていけばいいかは、知っている知識の中で見えてくるはずです。
現実の社会生活においては、本当の意味合いや本質を知らなければならない場面が多数存在しているはずです。自分の頭の中の具体的事例からのみ解を抽出できるだけでは、圧倒的な記憶力があり、ものすごい高速でデータ検索できるAIと比較すると必ず負けます。
だから、本質を知る癖、物事を抽象的に捉える癖をつけることで、実社会では必須となる、事実・事象から起こりうることを推察したり、類似の事象を参考にしながら、解を導き出すという力を身に着けていくことではないかと思います。
今から始められること
では、具体的に今から始められることはあるのか?
子供の興味関心や「なぜ?」を、深く掘り下げる練習を一緒にしてあげるのが良いのではないかと思います。
子供に「何で?」と聞かれると、「〇〇だからだよ」とか、「わからない」で終わってしまうことありませんか?
それだと先ほどの東大の問題の例ではないですが、1対1のQ&Aとして理解して終わりなってしまいます。
例えば、「虹はどうして見えるのか?」という問いに対しても、「雨の後に晴れたら虹って見えるんだよ」というのは間違いではないですが、そこで終わってしまいます。幼い頃は、それ以上を思考すること自体が難しいので、それでもいいと思いますが、成長するにしたがってその先を知るように誘導していくのが大事です。
「虹はどうして見えるのか?」という問いに対して、「どんな時に見えるかな?」から始まって、「なんで雨の後に見えるんだろうね?」「雨のあと晴れてないと見えないね?」「その時太陽はいつもどこにあるのかな?」「なんで色がいつも同じ順番なんだろうね?」という形で、段々と深掘っていき、一緒に調べてみてください。
そうして調べていくと、空気上には水蒸気という形で、水の分子が浮遊しており、水の分子に太陽の光が屈折・反射した結果、波長の違いによって屈折率が異なるために、波長の順に色が並び、それが虹となって合わられるんだと、知れるわけです。
液体・気体、光は色毎に波長を持ち、液体の中で屈折するといった物事・現象の本質を理解できるようになりますよね。
こうやって、最初は子供の興味関心や何故を深掘ることで本質への辿り着く方法をサポートしていくと、段々と子供自身が興味関心を深堀ることへの意欲が湧き、その方法などを学び、勝手に深掘っていくのだと思います。
本質を知ることが、この本で言われている読解力の向上に直接繋がるかどうかを科学的に証明しているわけではないですが、その一助になるように思います。
本のご紹介
数学的な知見が無くても、非常にわかりやすい内容の本となっておりましたので、もしまだ読んだことがないようであれば、AIという言葉がどういうものかをよく理解できるいい機会になるかと思います。
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また、身の回りの科学を知るのに非常に面白い本を見つけたので合わせてご紹介しておきます!
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